本作を稀有な名作へと昇華させた最大の功労者は、演出・脚本を手掛けた源孝志監督の美意識に他ならない。ドキュメンタリーとフィクションを繊細に交差させる画期的な手法は、当時の日本放送協会(NHK)およびNHKエンタープライズの番組制作史においても異彩を放っていた。源監督の徹底した美学が、画面の陰影や役者の表情一つひとつの背後に息づいている。
主演を務めた常盤貴子が醸し出す、老舗和菓子店の若女将としての艶やかさと凛とした佇まい。そして、英国人教授ヒースロー役を演じた団時朗のチャーミングかつ哀愁を帯びた存在感。この二人をはじめとする実力派キャスト陣が交わす軽妙な会話劇と、ふと見せる寂寥感の対比は、劇中歌や美術セッティングと相まって至高の映像美を作り出した。書籍では、キャスト陣が撮影当時に語ったインタビューや役作りへの覚悟も生々しく記録されている。