前作『ずっとあなたが好きだった』で佐野史郎が演じた「桂木冬彦」は、マザコンで木馬に乗る姿が象徴するように、内向的で受動的な異常性を持つキャラクターでした。対して本作の「山田麻利夫」は、知性・社会的地位・財力を兼ね備え、自らの欲望のために他者を容赦なく操る能動的かつ冷酷なサイコパスとして造形されています。
麻利夫の狂気は、前作のオタク的ストーカー像を遥かに凌駕する凶暴性を帯びていました。盗聴や盗撮、嘘の証言による人間関係の分断はもちろんのこと、加奈子の夫・伸吾を罠に嵌めて社会的信用を失墜させ、妻の美幸を暴力と洗脳で精神崩壊へと追い込む様は、当時の視聴者に凄まじい衝撃を与えました。
佐野史郎の怪演はさらに研ぎ澄まされ、冷たい微笑みの奥に宿る底知れぬ狂気、エリートのプライドが崩壊していく過程の鬼気迫る表情は、日本のテレビドラマ史に残る名悪役として今なお語り継がれています。