人間の顔を持つ動物というモチーフは、平成の都市伝説として突如生まれたものではありません。日本の怪異史を遡ると、古くから同様の伝承が連綿と受け継がれてきたことが分かります。
江戸時代後期には、人の顔と牛の体を持つ妖怪「件(くだん)」や、猿と人の合の子とされる「人面獣」の見世物小屋が人気を博しました。件は生まれてすぐに重大な災厄や予言を言い残して死ぬとされ、天変地異や飢饉の前触れとして恐れられていました。
人面犬は、こうした古来の妖怪伝承が近代都市のインフラ(高速道路、アスファルト、ゴミ集積所)と融合し、アップデートされた近代妖怪と言えます。昭和の「口裂け女」が徒歩で追いかけてきたのに対し、人面犬が「自動車の速度」に対抗して進化した点は、スピード狂の時代を象徴する興味深い変容です。