高度経済成長期、急速に宅地開発が進んだ川崎市宮前区周辺。その波に呑まれることなく、奇跡的に手つかずの自然が残された背景には、地域住民と行政による粘り強い保存運動の歴史があった。湿生植物が咲き誇る湿地帯から急峻な斜面林へと続く景観は、かつての多摩丘陵が持っていた本来の生態系をそのまま今に伝えている。
四季折々の表情も見事だ。春には可憐な山野草が芽吹き、夏にはホタルの光が水辺を舞い、秋には紅葉が谷を染め上げ、冬には澄んだ空気の中に野鳥の鋭い声が響く。植物学の祖・牧野富太郎が追い求めたような日本の原初的な植物相が、首都圏の住宅地にこれほど濃密な形で残されていること自体、ひとつの驚異と言っていい。