インターネット上の掲示板やSNSでは、定期的に「清太はプライドばかり高くて働かないクズ」「西宮のおばさんの言う通りにしていれば節子は死ななかった」という極論が噴出します。しかし、この対立構造を「善悪の二元論」で捉えることは、本作の構造的リアリズムを見誤る原因となります。
家族社会学の観点から両者の関係を紐解くと、そこには「戦時共同体の相互扶助ルール」と「近代的な核家族意識」の致命的な不一致が見て取れます。
清太は当時14歳の中学生に過ぎません。軍港都市・神戸の裕福な家庭で育ち、父は連合艦隊の巡洋艦艦長。突然の母親の死と敗戦間近の混乱の中で、14歳の少年に大人社会の苛烈な空気を読み、頭を下げて居候先に従属することを求めるのは酷な要求でもあります。清太の行動は「利己的な怠惰」ではなく、急激な環境破壊に対して自己の尊厳と妹との聖域を守ろうとした結果の「過剰防衛」であったと言えます。