一般市民が苛烈な経済難に苦しむ裏で、平壌の宮殿では夜な夜な燦然たる宴が催されていた。金正日総書記が求めたのは、世界各国から取り寄せられる極上の食材と、完璧に洗練された和食の技だった。築地市場から空輸される新鮮な魚介類、高級フランスワイン、そして厳選された最高級の米。専属料理人として長年側に仕えた藤本健二氏の独占証言は、最高指導者の知られざる日常のこだわりを鮮明に描き出している。
しかし、宴会場は単なる食宴の場ではなかった。酒杯が交わされる緊張感漂う空間こそが、朝鮮労働党の要人たちが生き残りをかけて火花を散らす権力闘争の最前線だったのだ。気まぐれな一口が側近の命運を左右し、歓談のひとときが国家の重大政策を方向付ける。豪華絢爛な料理の裏側に潜む冷酷な政治の緊張感こそ、最高幹部たちが息をひそめて参加していた宴会の真相にほかならない。