渡瀬恒彦の真骨頂は、円熟味を増した50代以降のテレビ作品にある。テレビ朝日の看板シリーズとなった『警視庁捜査一課9係』、京都の情緒と人間の業を描いた『おみやさん』、そして長寿サスペンスドラマの金字塔『タクシードライバーの推理日誌』。これらの刑事ドラマやサスペンスで見せた人情味あふれる佇まいは、彼自身の家庭生活の温もりから滲み出たものだった。
どんなに過密なスケジュールでも、現場に私情を持ち込むことは一切なかった。共演者や若手スタッフへの気配りを忘れず、常に現場の中心で頼れるリーダーであり続けた渡瀬。その徹底したプロ意識の背景には、「家を守る妻に恥じない仕事を全うする」という男の矜持が確かに息づいていた。