日本国内における男子100m走の群雄割拠は、世界的に見てもきわめてユニークな進化を遂げている。たとえば、9秒95の日本記録保持者である山縣亮太も身長177cmと、多田とほぼ同等レベルの体格を持つ。かつての「100m走は高身長が圧倒的有利」という固定観念を、彼らはその技術と技術的肉体作りで覆してきた。
190cmを超える海外選手は、一歩の足幅(ストライド)を大きく伸ばすことでスピードを稼ぐ。一方、176cm前後の日本トップ選手たちは、高いピッチ(足回転の速さ)と地面への接地時間を極限まで削る高効率な走法を武器にする。多田はこの「高ピッチ×強烈な地面反発」の極限に挑んでいる選手の一人だ。
体格の不利を言い訳にせず、自らの176cmというサイズを最も効率よく動かすバイオメカニクスを追求する。この取り組み姿勢が、日本の男子短距離界全体のレベル底上げを牽引していることは間違いない。