なぜ現場でそうした無理なコストカットが起きたのか。その背景を読み解くための経緯解説として欠かせないのが、世界的な物流コストの高騰と為替の急激な変動だ。かつて手頃に輸入できていたヨーロッパ産チーズの仕入れ値は数年で大幅に跳ね上がり、飲食店経営を強く圧迫した。
しかし、この逆風が思わぬブレイクスルーを生んだ。北海道十勝地方や長野県、栃木県那須などの国内酪農家たちが、世界水準に匹敵する国産ラクレットの生産に本格的に乗り出したのだ。日本の豊かな牧草で育った牛の生乳は、欧州産に比べて穏やかでミルキーな甘みを持ち、日本人の繊細な味覚に驚くほどマッチする。輸入頼みだった供給網が国内生産へとシフトしたことは、日本のチーズ文化における大きな転換点となった。