さざえ堂を語る上で最大の謎と称されるのが、「上りの人と下りの人が一度もすれ違わない理由」です。この現象を完全な形で実現しているのが、福島県会津若松市の飯盛山中腹に建つ会津さざえ堂 円通三匝堂です。
寛政8年(1796年)、郁堂(いくどう)和尚によって考案されたこの六角三層堂は、内部に階段が一切存在しません。緩やかな傾斜を持った木造スロープ(斜路)が時計回りに建物を巻き上がるように設計されており、参拝者は坂道を歩いて最上階へと向かいます。
頂上部に到達すると、建物の中央をまたぐ木製の「太鼓橋」が現れます。この橋を渡ると、進路は反転して今度は反時計回りの下りスロープへと滑らかに接続されます。登り専用通路の天井の裏側が、そのまま下り専用通路の床面となる立体交差(2本の螺旋が絡み合う構造)を採用しているため、物理的に上りルートと下りルートが完全に分離されているのです。
現代の立体駐車場や高速道路のインターチェンジで用いられる二重螺旋(ダブルヘリックス)の原理を、18世紀末の江戸の大工職人たちが釘を極力使わない木造軸組工法で完璧に具現化していたという事実は、木造建築の歴史と真相における世界的偉業といえます。レオナルド・ダ・ヴィンチがフランスのシャンボール城で設計した二重螺旋階段との類似性も指摘されますが、会津の職人が独力で創案した構造力学的結晶であるという説が現在も有力です。