公式イラストや設定資料を眺めると、ひとつの驚異的な事実に突き当たる。ポニョという存在を描き出す線の数が、極限まで削ぎ落とされている点だ。作画監督を務めた近藤勝也の手によって整理されたキャラクターイラストは、骨格や筋肉の正確なトレースではなく、感情の爆発や幼子の純粋な衝動そのものを線画へと昇華させている。
ポニョの初期設定には、北欧神話のワルキューレ「ブリュンヒルデ」としての側面や、半人半魚から人間へと進化する過程の不気味さと愛らしさの同居など、重層的な裏設定が張り巡らされていた。宮崎駿と近藤勝也は、影のグラデーションを極力排除し、シンプルな輪郭線の太さや弾力だけでその複雑な生命感を描き切るという、驚くべき離れ業を成し遂げたのである。