主演を務めた阿部サダヲの存在感は圧倒的だ。昭和の地獄小川こと小川市郎という、現代基準では完全にアウトなキャラクターに人間的な愛嬌と切なさを吹き込み、物語の推進力へと昇華させた。激しい怒号の裏に見え隠れする娘への深い愛や、時代の変化に戸惑いながらも順応しようとする健気な姿は、観る者の涙腺を容赦なく刺激する。
対する仲里依紗演じる犬島渚も、令和のキャリアウーマンが抱える孤独と葛藤を見事に表現していた。ハラスメントを過剰に恐れる上司と、効率ばかりを求める組織の挟み撃ちにあい、擦り切れていく彼女の姿は、現代社会を生きる多くの働く人々の影そのものだった。二人の時空を超えた掛け合いは、笑いの中にチクリと刺さる毒を忍ばせ、観る者に自らの立ち位置を再考させる。