彼のキャリアを語る上で欠かせないのが、戦前の大ヒット作『愛染かつら』である。看護婦と医師のすれ違う恋を描いたこの作品で、彼はヒロインを支える若き医師を演じ、日本中に空前のメロドラマブームを巻き起こした。甘いマスクと洗練された物腰は、戦争の足音が近づく暗い時代において、人々の心を癒やす唯一無二のオアシスだったと言える。
戦後もその人気は衰えることなく、成瀬巳喜男監督の『めし』や『山の音』といった名作に出演。単なる二枚目俳優から、人生の哀愁や複雑な心理を表現できる実力派へと脱皮を遂げた。彼の演じた役柄は、常に時代の空気を敏感に捉え、当時の日本人が憧れた「モダンな生き方」を提示し続けたのだ。