南京虫に刺された直後、多くの人は異変に気づきません。吸血時に分泌される唾液には、血液の凝固を防ぐ抗凝固成分だけでなく、局所麻酔のような成分が含まれているためです。寝ている間に痛みを伴わず吸血が行われ、数時間から数日遅れて激しい炎症反応が爆発します。
この猛烈な痒みの正体は、南京虫の唾液成分に対する遅延型アレルギー反応(IV型アレルギー)です。初めて刺された段階では体内に抗体ができていないため、潜伏期間が1週間から10日前後に及ぶケースや、無症状に近い状態で経過することもあります。しかし、吸血を繰り返されるうちに体内で感作が進み、2回目以降は刺されてから数時間〜1日程度で激しい紅斑と強い痒みが出現するようになります。
ネット上の相談や皮膚科臨床現場でよく見られる「噛み跡が2箇所並んでいる」「赤い点が直線状に走っている」という現象には明確な生態的理由があります。南京虫は血管を探し当てる能力がそれほど高くないため、最初の穿刺で十分な血流が得られない場合や、睡眠中の人間の寝返りで吸血が中断された際に、数センチ移動して再度針を刺します。海外で「朝食・昼食・夕食(Breakfast, Lunch, and Dinner)」と呼ばれるこの連続吸血パターンこそ、南京虫特有の噛み跡の典型例です。