尾上右近の経歴における最大の転換点は、2018年に歌舞伎役者でありながら浄瑠璃の太夫として「七代目 清元栄寿太夫(きよもと えいじゅだゆう)」を襲名したことです。
江戸歌舞伎の長い歴史において、舞台で立ち回りや舞踊を披露する「役者」と、舞台裏の黒御簾(くろみす)や出語りで物語を語り三味線と共に音曲を担う「清元太夫」をプロとして兼任することは、前例のない異例中の異例でした。
喉の使い方や発声法が全く異なる役者と太夫を両立させることに対しては、当初、伝統を重んじる関係者の間でも懸念の声がありました。しかし、歌舞伎座での襲名披露興行を成功させ、その後も自主公演「研の會」を通じて実力を証明し続けたことで、現在では「伝統の革新者」として確固たる地位を築いています。