本作が現在も語り継がれる最大の要因は、二宮和也が演じた淵上健太というキャラクターの圧倒的なリアリティと、脇を固めるキャスト陣の驚くべき顔ぶれにあります。火災によって両親を一度に亡くし、残された幼い兄弟たちを守るために心を閉ざす高校生・健太。二宮和也は当時、嵐としての華々しいアイドル活動と並行しながら、父親代わりになろうと空回りし、世間への敵意を剥き出しにする不器用な少年像を生々しく演じ切りました。
当時のドラマ制作スタッフが後に明かした手記や回顧インタビューによると、二宮の現場での集中力は当時から異彩を放っていました。台本を現場に持ち込まず、共演者の台詞のニュアンスに即座に反応する自然体のアプローチは、すでにこの『涙をふいて』の現場で確立されていたと伝えられています。感情を爆発させて怒鳴り散らすのではなく、伏せた視線や唇の微かな震えで孤独を表現する演技手法は、後のクリント・イーストウッド監督作『硫黄島からの手紙』にも直結する「引き算の美学」を感じさせます。
さらに特筆すべきは、兄弟役としての豪華絢爛なキャスティングです。
- 長女・淵上桃役(上戸彩):当時15歳。本作での瑞々しく芯の強い演技がお茶の間の注目を集め、国民的女優へと飛躍する決定的な足がかりとなりました。
- 末っ子・淵上良太役(神木隆之介):当時わずか7歳。喘息持ちで兄や姉に甘える無垢な芝居は、天才子役としての評価を決定づけ、二宮和也との兄弟シーンは涙なしには見られない屈指の名場面を生み出しました。
- 次男・淵上康太役(辰巳雄大):当時ジャニーズJr.(現・ふぉ〜ゆ〜)。兄の背中を追いながら思春期の葛藤に揺れる少年を等身大で好演しました。
- 主人公・大西勝男役(江口洋介):亡き先輩との約束を守り、血の繋がらない淵上家の4人兄妹を引き取る熱血工務店員をパワフルに体現し、作品の精神的支柱を務め上げました。
二宮和也と神木隆之介の共演は、映画・ドラマファンにとっても極めて貴重な歴史的一幕であり、幼少期の神木が二宮に全幅の信頼を寄せてぶつかっていった撮影現場の空気感が、作中の擬似家族の絆に唯一無二の説得力を与えています。