日本呼吸器学会の疫学調査(NICEスタディ)によると、国内の40歳以上のCOPD潜在患者数は推定530万人以上に達しています。しかし、実際に医療機関で継続治療を受けている患者数は約40万人程度にとどまっており、全体の1割未満しか適切な診断に至っていません。
なぜここまで診断率が低いのか。呼吸器内科の専門医や患者手記から浮かび上がるのは、「息切れに対する人間の心理的適応」という盲点です。
「階段を登るときに息が切れるようになったが、『もう60代だから当たり前』と思い込んでいた。無意識にエレベーターを使い、外出を控え、自分の活動量を減らすことで息苦しさを回避していた」——これは、III期の重症段階で初めて受診したある患者の述懐です。
息切れは痛みを伴わないため、人は無意識に行動パターンを縮小させて症状を覆い隠してしまいます。その結果、日常の歩行すら困難になるまで病態が進行し、救急搬送された風邪を契機に初めてCOPDと判明するケースが現場では後を絶ちません。運動時の違和感を年齢のせいにしない観察眼が求められます。