「最高ランクの防水性能を誇る最新のスマートフォンなのだから、お風呂の湯気くらい平気だろう」と考える人は少なくありません。大手キャリアのサポート窓口や端末メーカーの公式保証規定を確認すると、水没・水濡れによる基板損傷は、たとえ保証期間内であっても有償修理(または全額自己負担)の対象となる旨が明記されています。このギャップが生じる根本的な理由は、工業規格としての「防水」の定義と、実際の「浴室環境」のあいだに致命的な解離があるためです。
国際電気標準会議(IEC)が定める防水規格「IPX7」や「IPX8」の耐水テストは、水深1メートル以上の「常温の静水(真水、約15〜35℃)」に端末を静かに沈めて浸水がないかを検証するものです。浴室に立ち込める微細なスチーム湿気影響や、40℃前後の温水、入浴剤やシャンプーに含まれる界面活性剤は一切想定されていません。気体となった水分(水蒸気)の分子構造は液体の水分子に比べて極めて小さく、スピーカーやマイク、端子部の微細なメッシュ構造や防水シーリングをいとも簡単にすり抜けてしまいます。
さらに見落とされがちなのが、温度変化によって引き起こされる結露故障原因です。暖まった浴室内で端末の内部温度が上昇した状態で、換気扇の冷気や脱衣所の冷たい空気に触れると、端末内部の空気が急激に冷やされます。密閉されたボディの内部で飽和水蒸気量が限界を迎え、精密基板の表面に無数の細かい水滴が直接発生する現象が起こります。外側が完全に乾いていても、内部では直接水を掛けられたのと何ら変わらない致命的な短絡(ショート)が起きているのです。