ルーマニアの手刺繍をルーマニアたらしめているのは、緻密に計算された幾何学模様と、鮮烈なコントラストを生む色彩感覚です。一見するとモダンな抽象柄に見えるステッチには、農村に暮らす人々が自然界や宇宙に対して抱いてきた敬畏の念が反映されています。代表的なルーマニア刺繍の特徴と意味を知ることで、衣装の見え方は劇的に変わります。
刺繍に多用されるモチーフには、それぞれ明確な意味が存在します。
・太陽や星:光と生命の源であり、暗闇を祓う絶対的なポジティブの象徴。
・生命の木・植物:大地との繋がり、一族の繁栄と生命の永続性。
・十字や菱形:悪霊や災いから身を守る魔除け、豊穣の祈念。
・波線やジグザグ:川の流れや時の経過、天と地を繋ぐエネルギー。
色使いにも明確なコードがあり、情熱や生命力を表す赤、大地の肥沃さを象徴する黒、希望や若さを意味する黄や緑が巧みに組み合わされます。また、未婚女性は華やかで明るい色調を好み、年齢を重ねた女性は黒を基調とした落ち着いたトーンを身にまとうなど、着る人の社会的立場や人生のステージも布の上に表現されていました。