長年、「人間宣言はマッカーサーが書かせた英文をそのまま和訳したものだ」という説が一部で囁かれてきました。しかし、昭和天皇の回顧録『昭和天皇独白録』や関係者の証言記録により、起草の正確なプロセスが明らかになっています。
発端となったのは、GHQ民間情報教育局(CIE)の幹部ハロルド・ヘンダーソン中佐や、学習院教授で東宮御学問所御用掛を務めていたレジナルド・ブライスらの働きかけでした。彼らは天皇自らが神格否定を行うことで、海外からの天皇制廃止論を封じ込めようと提案します。
この動きを受けて当時の幣原喜重郎首相が草案作成を主導しました。しかし、昭和天皇はこの草案に対して極めて重要な指示を出します。それが「冒頭に明治天皇の『五箇条の御誓文』を全文掲げること」でした。
昭和天皇は後に『昭和天皇独白録』の中で次のように語っています。
「神格の否定ということは、第2の目的であって、第1の目的は日本の民主主義は決して輸入されたものではなく、日本の伝統に基づいたものであることを国民に知らせることにあった」
天皇の強いこだわりは、「日本の民主化は敗戦によってアメリカから強制されたものではなく、明治維新の精神(広く会議を興し、万機公論に決すべし)に戻ることなのだ」という誇りを国民に残すことにありました。GHQ側は五箇条の御誓文の挿入に当初当惑したものの、最終的にこれを了承し、マッカーサーは宣言発布当日に「天皇の声明を心から喜ぶ。彼はこれによって国民の自由化において指導的役割を果たした」と異例の称賛声明を発表しました。