国立がん研究センターなどの統計によると、副鼻腔癌は頭頸部がんの中でも発生頻度が低く、人口10万人あたり数人程度とされる希少がんです。その大部分を占めるのが頬の奥にある空洞にできる上顎洞癌ですが、多くの患者が振り返る最初の異変は、拍子抜けするほど日常的な不調でした。
数多くの闘病記ブログや患者手記を精査すると、発覚に至る最初のシグナルとして最も頻出するのが「片側だけの鼻づまり」と「ティッシュにわずかに付着する血性の鼻水」です。アレルギー性鼻炎や風邪であれば両側の鼻腔に症状が出ることが一般的ですが、副鼻腔癌の場合は病変が存在する片側のみに症状が固定化します。このわずかな左右差を見過ごし、「慢性副鼻腔炎(蓄膿症)」と自己判断して市販薬を数カ月間服用し続けた結果、腫瘍が骨を破壊するまで放置されてしまったケースは枚挙にいとまがありません。
さらに見逃せないのが、歯科領域の異常から発覚するパターンです。上顎洞の底面は上の奥歯の根元と極めて近接しているため、腫瘍が下方に浸潤すると「奥歯の浮くような痛み」や「歯肉の腫れ」が生じます。歯科医院で抜歯を行ったものの傷口が一向に塞がらず、肉芽のような組織が増殖して初めて大学病院へ紹介され、確定診断に至るという経路です。「もっと早く耳鼻咽喉科でファイバースコープやCT検査を受けていれば」という患者たちの悔恨の告白は、初期における医療機関の受診行動がいかに生死を分けるかを如実に物語っています。