福島原発・吉田所長の真実|海水注入の決断と吉田調書が語る死闘の光影

福島原発・吉田所長の真実|海水注入の決断と吉田調書が語る死闘の光影

福島原発・吉田所長の真実|海水注入の決断と吉田調書が語る死闘の光影の基本情報から最新動向までを徹底的にカバーしました。

過酷事故の真実に迫る第一級の歴史的資料が、政府事故調査・検証委員会が吉田昌郎氏に対して計13回、29時間以上にわたって実施したヒアリング記録、いわゆる吉田調書の内容と真相です。本来は非公開を前提に語られたこの調書には、官邸への苛立ち、部下への思い、そして自らが抱いた恐怖が赤裸々に吐露されていました。

この吉田調書を巡って2014年、日本のジャーナリズムを揺るがす大事件が発生します。それが吉田調書における朝日新聞の誤報取消問題です。朝日新聞は同年5月、「所長命令に違反して所員の9割に当たる約650人が福島第二原発へ撤退した」と大々的にスクープしました。あたかも現場作業員たちが所長の指示を無視して持ち場を放棄し、敵前逃亡を図ったかのような報道は国内外に大きな衝撃を与えました。

しかし、その後に開示された調書本文や現場関係者の詳細な裏付け取材によって、この報道は事実と大きく乖離していることが判明します。吉田所長が指示したのは「構内の放射線量が比較的低い場所、たとえば福島第一の南側や、やむを得なければ第二原発も含めて一時退避し、次の指示を待て」という趣旨の安全確保策でした。現場の線量が致死レベルに達する懸念がある中、不要な人員の被曝を避け、必要な部隊を再編するための現場コントロールだったのです。

他社による追及と批判の高まりを受け、朝日新聞は半年後に「命令違反で撤退」という記事を取り消し、経営陣が引責辞任する事態に発展しました。吉田調書が語っていたのは組織の崩壊や逃走ではなく、通信インフラすら壊滅した環境下で、極限の恐怖と闘いながら同僚の命を守ろうともがいた現場指揮官の苦悶そのものだったのです。

田中 結衣
著者

田中 結衣

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。