扉を開けた瞬間に広がる絶望感。床一面に散乱した脱ぎっぱなしの服、雪崩を起こしかけた引き出し、何年も袖を通していないスーツの群れ。都内の分譲マンションで取材に応じた40代の共働き夫婦は、「広い収納があれば家は自然と片付くと思っていた」と苦笑する。
空間の広さは、時として住まい手の油断を招く罠になる。建築士の佐々木浩二氏は「多くの人がクローゼットを『部屋』ではなく『何でも放り込める巨大なゴミ箱』として扱ってしまう」と指摘する。特に奥行きが深すぎる棚や、コーナー部分のデッドスペースは、視線が届かない物理的盲点となりやすい。一度視界から消えた衣類は、脳内からも消滅する。服は増え続け、空間は狭まり、最終的に立ち入ることすら億劫なブラックホールが完成するのだ。