脳が音を求めてボリュームを上げているのであれば、解決策は明確です。「脳に必要な音を適切に届けて、上がってしまったボリュームを元に戻す」こと。これこそが、臨床現場で高い改善実績を上げている「音響療法」の基本原理です。
特に加齢性難聴を伴う耳鳴りに対して第一選択肢となるのが「補聴器療法」です。難聴の自覚が乏しい軽度難聴の段階であっても、聞き取りにくくなっている周波数を補聴器で補って脳に音を入力すると、脳は「外からしっかり音が入ってきたから、自分で無理に感度を上げる必要はない」と認識し、過剰な興奮を鎮めます。これにより、数週間から数ヶ月の装用を経て、耳鳴りの自覚症状が劇的に軽減していきます。
また、日本耳鼻咽喉科学会の診療ガイドラインでも推奨される「TRT(耳鳴り再訓練療法:Tinnitus Retraining Therapy)」では、カウンセリングと併せてサウンドジェネレーター(ノイズ発生器)を用います。耳鳴りを完全に消し去るのではなく、心地よい広帯域ノイズ(せせらぎのような音やホワイトノイズ)を背景音として流すことで、耳鳴りの輪郭を曖昧にし、脳の警戒システムから耳鳴りを「無害な音」へと格下げさせて順応を図ります。