幼少期から舞台に立ち、たゆまぬ鍛錬を重ねてきた市川猿弥。その芸歴はまさに叩き上げの真骨頂といえる。名門・澤瀉屋の重要メンバーとして、古典から現代的な新作まで多種多様な演目を支えてきた。
彼の最大の強みは、一瞬で観客の心を掴むセリフの通りやすさと、間(ま)の取り方の美しさにある。喜劇的なアプローチで場を和ませたかと思えば、次の瞬間には重厚な敵役として劇場の緊迫感を最高潮に高める。その振り幅の広さこそが、長年にわたり舞台関係者やファンから愛され続ける理由だ。
伝統芸能の厳格なルールを踏襲しながらも、型にとらわれない柔軟な表現力。市川猿弥が画面や舞台に現れるだけで「何か面白いことが起きる」という期待感を観客に抱かせるパワーは、一朝一夕で身につくものではない。