不死川実弥の身体に無数に刻まれた傷跡は、単なる歴戦の証にとどまらず、彼の魂に刻まれた悲劇そのものを物語っています。
不死川家は、暴力的な父親と小柄で働き者の母親・志津(しづ)、そして実弥を長男とする7人兄弟の貧しい家庭でした。父親が他人に刺されて死亡した後、実弥と次男の玄弥は「母と幼い弟妹たちを2人で守り抜く」と誓い合います。しかし、そのささやかな幸せはある夜、突如として無残に打ち砕かれました。
夜遅くに帰宅しない母親を心配していた子供たちを襲ったのは、異形の鬼と化した実母・志津でした。幼い弟妹たちが次々と惨殺される阿鼻叫喚のなか、実弥は弟妹を守るため、包丁を手に必死で母親を屋外へ引きずり出します。夜明けまでの凄絶な乱闘の末、朝日を浴びて塵となって消えた母の亡骸の前に立ち尽くす実弥。そこへ駆けつけた玄弥が、パニックから思わず口にしてしまった言葉が「人殺し!」という悲痛な叫びでした。
この一夜の惨劇により、実弥は最愛の家族を守るために実の母を自らの手で殺めたという十字架を背負うことになります。顔や胴体に残る深い裂傷は、鬼化した母親の爪牙による傷であり、その後に鬼殺隊の存在すら知らぬまま、日光とトラップだけで鬼を生け捕りにし続けた無謀な単独戦の痕跡なのです。