『生きる』は、1971年に出版された詩集『うつむく青年』などに連なる時期、谷川氏が40代を迎える頃に書かれた作品です。当時の日本は高度経済成長期の真っただ中にあり、都市化や効率化が進む一方で、人間らしい実感が希薄化しつつある時代でした。
谷川氏は後に、特別な思想を説くためではなく、「目の前にある確かな感覚をただ拾い上げ、言葉として定着させたかった」といった趣旨の回想を残しています。机上の空論ではなく、肉体を持ち、呼吸をし、他者と関わる中でしか得られない手触り。それこそが、この詩を生み出す原動力となりました。
やがて『生きる』は光村図書をはじめとする小・中学校の国語教科書に広く採用されるようになります。教育現場における授業指導案でも定番教材となり、「自分にとって生きるとは何か」「続きの連を自分で書いてみよう」といった創作・対話型の授業が全国で展開されました。子どもたちに「命の大切さ」を説教じみた言葉ではなく、瑞々しい感性として届けることができる稀有なテキストとして、半世紀近く教育の現場を支えています。