茨城県古河市本町に蔵を構える青木酒造の歩みは、江戸末期の天保2年(1831年)の創業に遡ります。大正天皇のご成婚の折、皇室の慶事を祝う意を込めて命名された銘酒「御慶事」は、長年地域の人々に親しまれる日常酒として愛されてきました。しかし、2000年代以降、日本酒を取り巻く市場環境の変化とともに、蔵元は大きな転換点を迎えます。
その変革を主導したのが、現蔵元ファミリーの情熱と、酒造りの最高責任者として招聘された女性杜氏・箭川千秋(やがわ ちあき)氏の手腕です。伝統的な杜氏制度の高齢化や後継者不足が叫ばれる中、能登杜氏の巨匠のもとで研鑽を積んだ彼女の感性と緻密な醸造管理が、御慶事の酒質を劇的に進化させました。
「米の吸水率を秒単位で管理し、麹室の温度変化をわずか0.1度単位で見極める」――現場で語られるその徹底したデータ管理と女性ならではの繊細な味覚設計が、従来の濃醇でクラシカルな地酒像を覆しました。口に含んだ瞬間に広がるマスカットや林檎を思わせる華やかなアロマ、軽快でありながら芯のある米の旨味、そしてスッと引いていく美しい後味。このモダンでエレガントな味わいこそが、日本酒ファンのみならず、普段日本酒を口にしない層まで虜にする最大の理由です。