かつて地下劇場のパイプ椅子で観客を震え上がらせていた男が、今やグローバルな映像世界を揺さぶっている。彼の原点は、間違いなく汗と木屑の匂いが漂う舞台演劇にある。セリフ一つに数時間も議論を重ね、肉体を極限まで追い込む現場で、演技の骨組みが作られた。日本演劇界の重鎮である柄本明が体現してきたような「役と日常の境目を消し去る怪演」や、同世代で圧倒的な実力を示す柄本佑らが放つリアリティと共鳴しつつも、独自の狂気と哀愁をブレンドした表現スタイルを確立していった。
彼の強みは、セリフのない「間」にある。カメラが寄り寄りでその表情を捉えるとき、視線のわずかな揺らぎだけで登場人物のバックボーンをすべて語ってしまう。無名の時期が長かったからこそ身についた、人間観察の圧倒的な深さ。路地裏の人々や社会の片隅で生きる者たちの葛藤を、誰よりもリアルに描き出す技術がそこにはある。