殊能将之という作家の魅力は、その特異な経歴と謎めいた人物像にも起因しています。1964年生まれの彼は、名古屋大学理学部を中退後、編集者やDTPオペレーター、翻訳関連など出版現場の裏方としてキャリアを積みました。
覆面作家に近いスタンスを取り、メディアへの露出や顔写真の公開を極力避けていたため、デビュー当初は「正体はベテラン作家の別名義ではないか」という噂が飛び交ったほどです。古今東西のミステリ、SF、純文学から古典落語、映画、自炊料理に至るまで、驚異的なインプットに裏打ちされた知性が、作品の端々に滲み出ています。