入退院を繰り返すなかでも、歌丸師匠のスケジュール帳には常に落語会の予定がびっしりと書き込まれていました。師匠が公の寄席で披露した実質的な最後の高座は、亡くなるおよそ2ヶ月半前の2018年4月19日、国立演芸場での舞台でした。
このときの演目は『小言幸兵衛(こごとこうべえ)』。長年磨き上げてきた十八番の滑稽噺です。酸素吸入器をつけたまま高座に座り、枯れ枝のように痩せた身体からは想像もつかないほど澄んだ声で客席を笑わせました。高座を終えて袖に戻った際には肩で激しく息をし、周囲のスタッフが心配するほど衰弱していましたが、舞台上では一切の弱みを見せませんでした。
さらに4月24日には千葉県長柄町での落語会で『波の鼓』を口演。これが生涯最後の高座となりました。その後、容体悪化のため再入院することとなり、二度と高座へ戻ることは叶いませんでしたが、最期の一瞬まで「噺家・桂歌丸」であり続けました。