原作者の吾峠呼世晴が描く『鬼滅の刃』は、大正時代を舞台にしたダーク・ファンタジーでありながら、少年漫画の王道を行くエモーショナルな人間劇だ。株式会社集英社の『週刊少年ジャンプ』連載時から際立っていたのが、登場人物たちの内面や宿命を衣装の「柄」に投影する卓越した造形感覚である。
主人公・竈門炭治郎の市松模様が「繁栄と途切れぬ絆」を示すのに対し、善逸の鱗文は「臆病な自己の脱皮と再生」を雄弁に物語る。普段は泣き叫び、逃げ惑う善逸が、意識を失うことで本来の圧倒的な居合の技を解放する構造は、蛇が古い皮を脱ぎ捨てて真の姿を現す伝承そのものだ。
泥臭い修練と哀しい過去を抱えた少年の内面が、明るい山吹色の鱗文という視覚言語によって補完される。キャラクターの心理と日本の伝統意匠がこれほど有機的に結びついた事例は、近年の漫画表現を見渡しても極めて稀有な達成だ。