無限城での決戦において、黒死牟は岩柱・悲鳴嶼行冥、風柱・不死川実弥、霞柱・時透無一郎、そして不死川玄弥という鬼殺隊の最高戦力4名と対峙しました。この戦いの中で、時透無一郎が「黒死牟が人間に遺してきた子孫」であることが明かされます。自身の血筋が鬼殺隊の精鋭として命を懸けて自分を討ちに来た事実に、黒死牟は冷徹さを装いながらも動揺を隠せませんでした。
無一郎の命を賭した赫刀による刺突、玄弥の血鬼術による拘束、そして悲鳴嶼と実弥の猛攻により、黒死牟は頸を切り落とされます。しかし、彼は鬼の究極の進化段階である「頸の弱点の克服(頸を再生させる頭部再生)」を果たしました。頭部を再生させた黒死牟の姿は、もはや端正な武士の面影はなく、頭部から巨大な角が生え、背中から無数の刃が突き出た真の「異形の怪物」へと変貌を遂げていたのです。
勝敗を分けた決定打は、肉体の損傷ではなく「自身の姿を日輪刀の刃に見たこと」でした。実弥の刀身に映った己の醜怪な姿を目にした瞬間、黒死牟の脳裏に激しい問いが突き刺さります。
「これが本当にお前の望んだ姿なのか? 侍の姿かこれが?」
武士としての誉れを捨て、実の弟を憎み、子孫を切り捨て、神仏に唾吐いてまで手に入れたかったものが、このような醜悪な化け物の姿だったのかという根源的な嫌悪と絶望。その一瞬の迷いによって再生が停止し、無一郎の赫刀に焼かれた傷口から肉体が崩壊を始めました。鬼殺隊の不屈の意志と、彼自身の内側に遺されていた「武士の残滓」が、上弦の壱を滅ぼす真の敗因となったのです。
そして肉体が灰となって消滅した後、その衣服の残骸から床へと転がり落ちたのが、かつて幼少期に巌勝が手作りし、弟・縁壱へ与えた「ボロボロの笛」でした。
80歳を過ぎて再会した縁壱が、寿命を迎えて立ったまま息絶えた日。激情に駆られた黒死牟が弟の遺体を切り裂いた際、その胸元から零れ落ちたのは、大切に布で包まれたその笛でした。「兄上だと思って大切にしておりました」という弟の純粋な敬愛を知りながら、黒死牟はその笛を捨てることができず、400年以上もの間、自身の懐に秘め続けていたのです。憎悪し、殺したいほど嫉妬しながらも、誰よりも弟を愛し、弟になりたかったという哀しき矛盾が、その笛一本に集約されていました。