カナヲが常に柔らかな微笑みを浮かべつつも無感情だった背景には、目を覆いたくなるほど過酷な幼少期が存在します。貧民街に生まれた彼女は、実の両親から日常的に激しい暴力を受け、泣くことや痛がることを禁じられた結果、「心の痛みを感じないように感情の蓋を閉ざす」ことで生き延びてきました。
名前すら与えられず親から人買いに売られ、縄で引かれて歩かされていたところを救い出したのが、胡蝶カナエと胡蝶しのぶの姉妹でした。姉妹によって「栗花落カナヲ」と名付けられたものの、自分の意思で何も選べない彼女のために、カナエが手渡したのが「銅貨(コイントス)」です。「指示されていないことはコイントスで決める」というルールは、当時のカナヲにとって心を痛めずに世界と折り合うための唯一の防具でした。
この頑なな心を溶かしたのが、蝶屋敷での機能回復訓練を終えた竈門炭治郎です。炭治郎はカナヲの意思を尊重し、「表が出たら、カナヲは心のままに生きる」と賭けてコイントスを行い、見事に表を出してみせました。「人は心が原動力だから、心はどこまでも強くなれる」という炭治郎の温かい言葉は、カナヲの止まっていた心の時間を動かす決定的な転機となったのです。