鬼殺隊の同期である竈門炭治郎や嘴平伊之助が、それぞれ己の信念や野生の直感で恐怖に立ち向かう中、我妻善逸の言動はどこまでも「等身大の人間」そのものだ。鬼の気配を感じれば真っ先に悲鳴を上げ、女の子には露骨に鼻の下を伸ばし、自らの弱さを隠そうともしない。視聴者が彼に覚える第一印象は、お世辞にも「頼もしい英雄」とは言い難い。
だが、その情けない日常描写が長ければ長いほど、覚醒の瞬間がもたらすカタルシスは幾重にも跳ね上がる。極限状態の恐怖が彼の意識を遮断した時、静寂とともに訪れる居合いの構え。背筋を伸ばし、柄に手をかけた瞬間の空気の変貌ぶりは、観客の皮膚を粟立たせる。この振れ幅の大きさこそ、善逸というキャラクターが世界的に愛される一番の仕掛けなのだ。