呼吸法の系譜において、すべての始まりは「日の呼吸」にある。そこから派生した基本五流派(水・炎・風・岩・雷)のなかで、蛇の呼吸は「水の呼吸」を母体として生まれた。水が持つ「しなやかさ」や「変化に富んだ流動性」を極限まで押し進め、極めて局所的かつ変幻自在な軌道へと特化させたのがこの流派だ。
伊黒小芭内という剣士の体躯は、決して恵まれたものではない。小柄で筋力にも限界がある。だからこそ、真っ向からの力押しを捨て、相手の視界の隙間や防ぎようのない角度から刃を滑り込ませる技術が突き詰められた。水の呼吸が広範囲の流れるような防衛や攻撃を得意とするならば、蛇の呼吸は狙った隙間を狂いなく這い進む死の毒蛇である。独自の身体能力と関節の柔らかさが融合することで、この異形にして完璧な派生ルートが完成したのだった。