猗窩座の強さへの執着は、江戸時代に生きた人間時代の壮絶な境遇に端を発しています。当時の彼の名は狛治(はくじ)。病弱で薬も買えない貧しい父親を救うため、幼い頃からスリや盗みを繰り返していました。
奉行所に捕まるたびに厳しい百叩きの刑を受け、全身に罪人の証である「刺青(入れ墨)」を刻まれながらも、狛治は父のために盗みをやめませんでした。しかし、息子の将来を悲観した父は「真っ当に生きてくれ」と遺書を残して首を吊り自死。生きる目的を失い、自暴自棄になって町で大暴れしていた狛治を拳一つで叩き伏せたのが、素流(そりゅう)武術の道場主・慶蔵(けいぞう)でした。
慶蔵は狛治を咎めることなく自宅へ連れ帰り、重い病を患っていた実の娘・恋雪(こゆき)の看病を任せます。慶蔵の温かな包容力と、自分を心から頼りにしてくれる恋雪の存在によって、狛治の荒みきっていた心は次第に癒やされ、本来の優しさと忠義を取り戻していきました。