鬼平ワールドを語る上で欠かせないのが、平蔵を幼少期から知る老密偵「相模の彦十」や、愛嬌たっぷりの同心「木村忠吾」といった愛すべき脇役たちです。彼らを演じた名優たちの変遷と現在の状況には、時代の移り変わりと哀惜の念が交錯します。
平蔵を「鉄つぁん」と呼べる唯一の理解者・相模の彦十役は、吉右衛門版では喜劇界の至宝である三木のり平さんが飄々とした名演技を披露し、のり平さんの没後は三代目江戸家猫八さんがその味わいを受け継ぎました。そして新シリーズで彦十役に抜擢されたのが、名バイプレイヤーの火野正平さんでした。火野さんは枯れた色気と人情味あふれる軽妙な語り口で新時代の彦十を確立しましたが、2026年11月に75歳で惜しまれつつ逝去。画面に残された温もりあふれる演技は、時代劇界におけるかけがえのない遺産となりました。
また、「うさぎ」の愛称で親しまれる食いしん坊の同心・木村忠吾役も作品の清涼剤です。吉右衛門版で当たり役とした尾美としのりさんは、お調子者でありながら憎めない忠吾を長年熱演し、現在も名脇役として第一線で活躍を続けています。新シリーズでは浅利陽介さんが忠吾役に就任。コミカルな間合いと憎めない人間臭さを見事に引き継ぎ、シリアスな捕物帳の中で見事なアクセントを担っています。
さらに、平蔵を支える妻・久栄役も重要な変遷をたどっています。吉右衛門版の多岐川裕美さんが見せた凛とした気品と武家の妻としての包容力は絶大でしたが、幸四郎版では仙道敦子さんが久栄を好演。過去に傷を持つ久栄の複雑な内面と、夫を静かに見守る深い母性を柔らかく表現しています。
密偵の小房の粂八役を務めた蟹江敬三さん(2014年逝去)や、大滝の五郎蔵役の綿引勝彦さん(2026年逝去)など、吉右衛門版を支えた多くの名優たちが鬼籍に入られた経緯は寂しさを禁じ得ませんが、その魂は新シリーズのキャストたちへと確かに受け継がれています。