長谷川平蔵の真の偉業を語る上で欠かせないのが、自ら江戸幕府に提案して設立した「石川島人足寄場(いしかわじまにんそくよせば)」の存在である。当時の刑事制度は厳罰主義が主流であり、罪を犯した者や無宿人は刑罰か追放の二択しかなかった。それに対し、平蔵は自立支援と職業訓練を組み合わせた画期的な施設を創設したのだ。
寄場では、大工や塗師、紙すきといった技能を習得させ、出所時には作業報償金を支給して社会復帰を支援した。これは世界的に見てもきわめて先進的な矯正教育および更生保護のシステムであり、単なる治安維持の枠を超えた社会福祉の先駆的施策と評価されている。酷薄な取締官として恐れられる一方で、社会の構造的敗者に救いの手を差し伸べたこの構想力こそ、平蔵という男の非凡さを証明している。