李相日監督による映像化において、藤駒の「その後」のアプローチには映画ならではの大胆な解釈が加えられた。原作では徹底して沈黙を守り続けた母の影を、映画ではスクリーン越しの視線や風の音といった象徴的な演出で鮮烈に表現している。
映画版のクライマックスへと至るプロットでは、喜久雄が芸の極致「国宝」に至るプロセスの裏で、母・藤駒の遺志が魂の救済として描かれた。原作ファンを唸らせたのは、スクリーンの中で一瞬交錯する回想シーンだ。暗闇の客席から息子の晴れ舞台をそっと見つめる幻影のようなカットは、スクリーンだからこそ表現できた母性の極致といえる。映画業界でも「原作の切なさを超える映像的叙事詩」と高く評価されたポイントである。