昭和から平成にかけて、テレビドラマや映画の描写などを通じて「過呼吸には紙袋を口に当てて自分の呼気を吸わせる(ペーパーバッグ法)」という対処法が広く定着しました。「吐き出した二酸化炭素を再び吸い込ませることで血液中の炭酸ガス濃度を戻す」という理屈に基づいていたためです。
しかし、現在の救急医療およびガイドラインにおいて、ペーパーバッグ法は原則として禁止されています。日本救急医学会などの専門機関も明確に注意喚起を行っています。
禁止となった最大の理由は、「低酸素血症による死亡事故」が実際に複数報告されたためです。紙袋で口と鼻を完全に塞いで呼吸を繰り返すと、袋の中の酸素濃度(通常約21%)は急速に消費されて一桁台まで低下します。その結果、二酸化炭素を取り戻す以前に重篤な酸素欠乏状態に陥り、心停止や不可逆的な脳損傷を招く危険性が極めて高くなります。
さらに危険なのは、過呼吸に見える症状の背後に「気管支喘息の重積発作」や「肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)」、「急性心筋梗塞」などの重篤な呼吸器・循環器疾患が隠れていたケースです。これらの疾患で低酸素状態に陥っている患者に紙袋を被せると、酸素供給が断たれて命を落とす決定打になりかねません。どのような状況であっても、自己判断で紙袋を使うことは絶対に避けてください。