なぜ本来は航海専用であったメルカトル図法が、これほどまでに世界の学校教育や報道の標準として定着してしまったのでしょうか。
背景には大航海時代以降の帝国主義と欧米中心の世界観(Eurocentrism)があります。メルカトル図法を用いると、ヨーロッパ諸国や北米大陸が高緯度に位置するために堂々と大きく描かれ、植民地化された熱帯・亜熱帯の地域(アフリカ、東南アジア、中南米など)が相対的に小さく従属的な印象を与える結果となりました。
この偏りをめぐっては過去数十年にわたり国際的な論争が続いています。1970年代にアルノ・ペータースが面積の比率を正確に保った「ペータース図法」を発表した際には、地理学会を巻き込む激しい激論へと発展しました。さらに近年でも、米ボストンの公立学校がメルカトル図法を排除して面積正角図法を一斉導入したニュースが話題を呼んだほか、SNS上では「世界地図は植民地支配のプロパガンダだったのではないか」とする言説が拡散され、しばしばネット上で炎上や議論の的となっています。
現代の地理学者や教育界の主流な見解としては、悪意ある意図的な捏造というよりも、「航海図としての利便性から印刷普及した図法が、安易に一般教育用の世界地図へと転用され続けた結果」という構造的怠慢が指摘されています。