「フラッシュカードのように毎日めくって見せているのに、単語を話してくれない」という相談は、療育現場で最も頻繁に聞かれる声の一つです。発達臨床心理学および応用行動分析(ABA)の観点から分析すると、この停滞には明確な理由が存在します。それは、絵カードを「言葉を覚えさせるためのドリル」として扱ってしまい、「自分の意志を他者に伝える道具」として子どもが認識できていないという点です。
定型発達児の場合、耳から入る音声情報と目の前の状況を結びつけて自然に言葉を獲得していきます。一方、自閉スペクトラム症(ASD)などの発達特性を持つ子どもは、音声言語の処理よりも視覚情報の処理に優位性(視覚優位)を持つケースが多いとされています。しかし、大人が「これはリンゴ、言ってごらん」と一方的に提示する受動的な環境では、子どもにとって絵カードは単なる「正解を求められる苦痛な課題」に変質してしまいます。
言葉が生まれる根源的な原動力は、「相手に自分の要求を伝えたい」「欲しいものを手に入れたい」という強い動機(要求言語行動/マンド)です。カードを見せることばかりに注力し、子ども自身が「カードを渡すことで要求が叶った」という成功体験(好子による強化)を積めていない場合、どれだけ長期間続けても自発的な発語やコミュニケーションの芽は育ちにくいのが実情です。