なぜここまで「お義母さん」の読み方や表記を巡って混乱が起きるのか。その背景には、スマートフォンの文字入力システムと、漫画・小説などのメディアが作り出した「視覚と言語のねじれ」がある。
漫画や小説では、登場人物のセリフで「お母さん」と言っているものの、読者に「これは実の母親ではなく義理の母親である」と一瞬で理解させるために、「お義母さん(おかあさん)」とルビを振る演出技法が多用されてきた。この演出が長年繰り返された結果、読者の脳内で「お義母さん」という文字列が記号化され、「お義母さん=ぎぼ+さん=おぎぼさん」という勝手な読み替えがネットスラングのように定着してしまったのだ。
さらに現代のスマートフォンでは、文字入力で「おぎぼさん」と打っても自動変換で「お義母さん」と表示される端末が存在する。この技術的なアシストが、ユーザーに「おぎぼさんという読み方が正しい日本語として認められている」という誤認を植え付ける要因になっている。
文字情報としての「お義母さん」は、第三者に対して「義理の母」であることを簡潔に伝える書き言葉としては非常に優秀だ。しかし、音声言語としての「おぎぼさん」は存在しない。この「文字としては成立するが、声に出して読むときは『おかあさん』になる」という二重構造を理解していないと、冠婚葬祭の親族紹介やスピーチで「私のおぎぼさんが……」と発言してしまい、周囲を困惑させることになる。