漢字の歴史において、最も古い形態とされるのが古代中国・殷(商)の時代(紀元前1300年頃)に使われていた甲骨文字や、青銅器に鋳込まれた金文(きんぶん)です。
当時の甲骨文字における「犬」は、完全に動物の横姿を描いた「象形文字」でした。頭部には突き出た鼻先と上を向いた耳、細い胴体、前後の足、そして上向きにくるりと巻いた尻尾が克明に描かれていました。
古代中国の社会において、犬は狩猟のパートナーであり、夜間の番犬であり、さらには神事における重要な生贄(いけにえ)でもありました。古代人は身近な獣である犬の骨格や習性を驚くほど正確に観察し、その特徴的なシルエットを文字として刻み込んだのです。漢字の祖先であるこのスケッチのような文字が、数千年をかけて現在のスマートな「犬」へと洗練されていきました。