相手を思いやって放ったはずの「Have fun!」が、なぜビジネスや目上の人に対して失礼に当たるのでしょうか。英語教育の現場や外資系企業のリレーションシップ指導で指摘される理由は、語用論(Pragmatics)と社会心理学の双方から明確に説明できます。
最大の要因は、「Have fun」が文法上、命令文(Imperative mood)である点です。英語圏では親しい間柄でない限り、他者に対して感情や行動を直接命令する表現は、たとえ語尾を明るく発音したとしても潜在的な上下関係を生み出します。社会言語学における「ポライトネス理論(Politeness Theory)」では、相手の領域に土足で踏み込まず自由を尊重する姿勢を「ネガティブ・ポライトネス」と呼びますが、「楽しめ」と命じる行為はこの領域への過剰な介入と見なされかねません。
さらに決定的なのが「fun」という単語が内包する『子供っぽい娯楽・お祭り騒ぎ』の語感です。「fun」は遊園地で遊ぶことやパーティーでの騒ぎを想起させる単語であり、国際学会や戦略会議、重要な顧客折衝に臨むエグゼクティブに対して「Have fun!」と告げるのは、「仕事を遊び半分で適当に楽しんでこい」と揶揄しているかのように響く危険性すら孕んでいます。