淡嶋神社を語る上で避けられないのが、オカルト愛好家や一部の心霊系メディアによって拡散された「心霊スポット」という噂です。夕暮れ時や曇天の日に無数の人形が一斉にこちらを見つめているように感じられる視覚的圧力から、恐怖心を抱く人がいることは否定できません。
特に昭和から平成のテレビ特番などで幾度となく取り上げられたのが、「お堂の奥に保管されている、人間の髪が伸びる人形」の都市伝説です。
この噂の真相について民俗学的・科学的知見を交えて検証すると、次のような事実が浮かび上がります。
かつての伝統的な日本人形には、人毛や動物の毛が植え込まれているケースが多く見られました。職人が人形を制作する際、頭頂部の内部で毛髪を二つ折りにし、糊や糸で固定して束ねる技法(「折り返し植え」)が用いられます。歳月が経つにつれて内部の糊が乾燥して緩んだり、空気中の湿度変化によって縮んでいた毛髪がまっすぐに伸びたりすることで、数ミリから数センチほど髪が長くなったように見える現象が自然科学的に起こり得ます。
神社側でもこうした人形の存在をいたずらに隠蔽するのではなく、「大切にされた人形には持ち主の念や情が宿る」という日本古来のアニミズム(精霊信仰)への敬意を払いつつ、静かに供養を行っています。おどろおどろしい呪いや祟りではなく、「命あるものとして大切に扱われてきた証拠」として解釈するのが正しい理解です。
夜間の無断立ち入りや肝試し感覚の来訪は厳しく禁じられており、日中の清らかな風が吹き抜ける境内で手を合わせれば、そこが不気味な場所ではなく、人々の深い愛情が凝縮された聖域であることが実感できます。