佐伯孝夫が手掛けた歌詞は、フランスの文豪スタンダールの小説『赤と黒』をモチーフにしつつも、戦後日本の夜の街に生きる男と女のやるせない宿命を見事に描き出しています。
作中に登場する「赤」と「黒」は、単なる色彩の対比にとどまりません。「赤」は心臓の鼓動、燃えるような情熱、あるいは夜の街に妖しく明滅するネオンサインと男の血潮を象徴しています。対する「黒」は、戦後社会の暗部、孤独、夜の闇、そして拭い去ることのできない死の気配を暗示しています。
「夜霧の街の片隅で、夢を失った男がなおも捨てきれない愛と誇りを胸に抱く」というストーリーテリングは、単なる恋愛歌の枠組みを超え、戦争によって青春を奪われ、高度経済成長の影で虚無感を抱えていた当時の日本人の深層心理に痛烈に突き刺さりました。鶴田のささやくような、時に語るような歌唱法(クルーナー・唱法)によって歌われることで、佐伯孝夫の詩は文学的な重みと映画的な叙情性を獲得したのです。