大人になり再会した縁壱の強さは、巌勝がどれほど血のにじむ鍛錬を重ねても決して届かない「神の領域」に達していました。武の頂を極めたいという執念に取り憑かれた巌勝は、安定した武家の身分も、愛する妻や幼い子どもたちもすべて捨て去り、鬼殺隊へ身を投じます。
しかし、そこで待っていたのはさらなる絶望でした。縁壱が操る「日の呼吸」を誰も完全に習得できず、巌勝もまた派生である「月の呼吸」を生み出すことしかできませんでした。どれほど努力しても弟の模倣に過ぎないという事実は、巌勝のプライドを内側から蝕んでいきます。
そして、巌勝を精神的に完全に追い詰めたのが「痣の発現による寿命宣告」でした。身体能力を極限まで引き上げる痣を発現させた剣士たちが、例外なく25歳の若さで命を落としていく現実に直面します。
「技を極めるための時間が足りない」「明日にも自分は死ぬかもしれない」という極限の焦燥感に苛まれていた巌勝の前に現れたのが、鬼の始祖・鬼舞辻無惨でした。無惨から「ならば鬼となり、無限の刻を生きて技を極めればよい」と持ちかけられた甘美な誘惑に抗う術を、当時の巌勝は持ち合わせていませんでした。こうして彼は人間を辞め、始まりの呼吸を使う初の鬼「黒死牟」へと堕ちていったのです。