日本映画界の至宝・黒沢清監督が放つ最新作は、これまでのサスペンスの常識を心地よいほどに裏切ってみせた。閑静な郊外の街で相次ぐ怪事件。その背景に透けて見えるのは、都市生活者が抱える孤立と相互不信だ。主人公を演じる役所広司の圧倒的なリアリティを伴う演技は、観る者を一瞬でスクリーンの中へと引きずり込む。
劇中の全編を包み込むのは、いつ誰が牙をむくかわからない息苦しいほどの緊迫感だ。観客はスクリーンに投影された歪んだ鏡を通して、自分自身の足元を見つめ直さざるを得ない。映画館の暗闇の中で広がるこの異様な静寂こそ、名匠が仕掛けた最大の罠と言えるだろう。